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-- やってみよう --
真空採血管による採血法 初歩の技術16
九州歯科大学動物実験施設 佐加良英治

はじめに
 血液が持つ生理的機能はきわめて多岐にわたるので,その構成成分の分析・測定によって,動物の生理的あるいは病的状態を把握するための情報を多数得ることができる。そのため動物実験において採血という技術は必要不可欠なものの一つとなっている。実験動物の採血法は対象動物や採血量に応じ,採血部位や採血法が異なり,成書にも多くの方法が記載されている。一方,真空採血管による採血法は人ではごく普通に行われており,決して目新しい方法ではないが,実験動物領域ではあまり普及していないと思われる。
 その理由として以下のことが考えられる。

1.真空採血管の吸引力が小動物の血管に対して強すぎるのでは?
2.採血針の選択ができないのでは?
3.ホルダーが邪魔になって小動物での採血は難しいのでは?
4.シリンジでの採血で十分であり,わざわざ真空採血管を使う必要がないから?

 我々も数年前まで,シリンジを用いてイヌの採血を行っていたが,ごくたまに凝血や溶血が認められることがあった。そこで溶血しにくいという真空採血管を使用したところ,シリンジに比べ,針先の固定が容易であるため失敗がなくなり,溶血や凝血はなくなった。そうなると血液にふれる危険性が減少した。多くの検査項目に対する適応が容易であり,片手が自由になる真空採血管による採血法が当動物実験施設の主流となった。その後多くの動物種で真空採血管による採血法を試みたが,上記の吸引力,採血針の選択,ホルダーの位置設定などの問題になると思われる項目は解決できた。そこで現在当施設で行っているラットとイヌの真空採血管による採血法を紹介する。

 

真空採血器について
 写真1に示すように A. 真空採血管(9ml),B. 真空採血管(2ml:抗凝固剤入り),C. ホルダー,D. マルチプル採血針,E. ルアーアダプターなどが1セットである。D. マルチプル採血針とE. ルアーアダプターの違いは,マルチプル採血針はそのままの針で採血するもので,ルアーアダプターは任意の注射針や翼状針をつけて採血するもので,採血対象に応じ注射針の選択ができる。


採血の実際
1.ラットの心臓採血ラットに麻酔をかける。麻酔がかかったらラットを仰臥位にする。ホルダーにマルチプル採血針(我々は22Gを使用している)を装着し,採血管を準備しておく。心臓のすぐ下には胸骨の剣状軟骨があり,その少し上(図1)が心臓である。心臓穿刺部位は心尖拍動を感じる部位である。位置を確かめたら,正中やや左側から正中方向にほんの少し針を入れ,胸壁を貫通させる。針が動かないように,ホルダーを固定しながら採血管を差し込む。後はゆっくり針を下げていけば,血液が採血管の中に入ってくる(写真2)ので,そこで針を固定して,必要に応じて採血管を交換する。採血管内への流入が止まったら採血管を抜く。針を深く入れすぎないことが大事である。
 我々はこの方法で凝血や溶血することなくコンスタントに10ml以上の採血を行っており,これまでに特に問題は認められていない。腹大動脈からの採血も小型の針や翼状針が使えるルアーアダプターを使えば簡単である。吸引力が強く採血針の先が血管壁に付着する時は,針先をやや回転させれば吸引できる。
 採血のポイント:心臓の位置は成獣では横隔膜のすぐ上にある(写真3)。若齢のものでは,それよりもやや上方に位置することに注意。

2.イヌの橈側皮静脈からの採血
 上腕に駆血帯を巻き静脈を怒張させる。ホルダーにマルチプル採血針(我々は21Gを使用している)を装着し,採血管を準備しておく。前肢を内転させ,橈側皮静脈を前肢の正中に持ってくる。アルコール綿で採血部位を消毒し,アルコールが乾いた後,静脈の走行に沿って,皮膚と15〜20度の角度で針を刺入させる。針先が動かないように,ホルダーを前肢と一緒に固定(写真4)して採血管を差し込む,採血ができたら必要に応じて採血管を交換する。9mlの真空採血管では吸引力が強いため,たまに血液の補充が追いつかないことがある。その時は片方の手で,手掌部を繰り返し握ってやると血液は簡単に採血管内に流入する。採血管内への流入が止まったら,採血管をはずし,針先にアルコール綿をあて,静かに針を抜き,止血するまで刺入部位を圧迫しておく。
 採血のポイント:ホルダーと前肢を一緒に握り,イヌが動いても絶対にホルダーを動かさないこと。暴れるイヌの時は,翼状針を刺入し,その部位をサージカルテープで固定する。ホルダーさえはずさなければ,多少暴れても採血が可能である。

最後に
 当施設で通常行っている真空採血管による採血法を紹介した。通常は行っていないが,モルモットの心臓採血,ウサギの耳静脈からの採血,ネコの大腿静脈からの採血,サルの大腿静脈からの採血,ブタの耳静脈からの採血,ヤギやヒツジの頸静脈からの採血も可能である。真空採血管は血管が大きくなるほど使いやすくなるが,小さくても針と採血管を選べばミスなく行えるし,ホルダーを保定しにくい部位でも翼状針を使えば簡単にいく。この採血管の動物利用における最大のメリットは,片手が自由になることである。これは採血に協力しない動物を採血する上では大きな事だと思われる。機会があれば,せひ一度試していただきたいと思う。

 尚,この原稿を書くにあたり使用した写真は,当施設に勤務する(株)アニマルケアの永島博,若山博幸,原田留美の各氏の協力のもとに撮影された,ここに感謝の意を伝える。