第 6 号
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-- 巻頭言 --
和から積へ
奥羽支部長 吉田 煕

 私の学んでいる薬理学の中に,相加と相乗という用語があります。相加は2つの薬物を併用し,その作用がそれぞれ単独使用時の和に等しい場合に使用し,相乗は個々の薬物の効果が単純に加算した時よりも大きく現われた場合に使用する言葉です。相乗効果は定義付の問題で議論の余地があるようですが,薬物の相互作用という点では臨床的にも重要な意義をもっています。実際に,会員の方も病気にかかった時,医師や歯科医師から2つ以上の薬物を受け取られた経験があると思います。
 この相乗効果を思わせられるような言葉と技術者に取って心強い言葉を,昨年の4月15日付朝日所聞の天声人語欄で読むことができました。登山家でもあり,南極観測第1次越冬隊長でもあった西堀栄三郎先生が残した表現集の中から選んだもので,1つは「和でなくて積」,もう1つは「忍術でもええで」という言葉でした。その要旨を紹介しますと,「同じ性格の人達が一致団結しても,せいぜいその力は『和』の形でしか増さない。だが,異なる性格の人達が団結した場合には,それは『積』の形でその力が大きくなるはず」という考えに徹して南極観測において成果をあげたという文章で,もう1つの方は「人に何かをやってもらおうと思えば『責任感を持たせ,切迫感を持つように追いやるのが理想的』と考え,とにかく自分で工夫し実行したまえと任せる。どんなふうにでもよい」というように,個性を重んずる文章でした。
 実披協の会員には大学を卒業された方もおれば,高校を卒業された方もおります。また,獣医師の方もおれば臨床検査技師の方もおります。それ故に,個性豊かな人達も多いと思われます。しかしながら,私が知る限りでは,全般的に消極的な人達が多いような気がしてなりません。とはいうものの,過去の私もそのような人の1人でした。たとえば研究発表会の演題の中に,日頃疑問に思っていることが発表されていても尋ねることもできず,また懇親会会場においても,親しい友人としか話し合うことができなかったのです。今では友人も多く,その分野に秀でている人達と話し合うことによって自分の視野が広くなってきました。このような私の経験から,実技協の会員の皆様に望むことは積極的な行動です。確かに,今までの実技協の方針は組織をまとめ,1つの目標に向って前進することに趣を置いてきたことは事実です。しかし,実験動物技術者の立場が目に見える程には向上していない現在,知識と技術を伴なった佃性豊かな人材が望まれているのではないでしょうか。私案ですけれども,それには話し合うことも重要と思いますが,論議し合う方がもっと必要てあるのではないかと思います。形のある物は上下,前後,左右とあり,見る方向によっては見える姿が違っています。しかし,物をなしている中心は1点しかないはずです。同じ仕事をしている技術者の中でも,前から見ている人もいれば,後から見ている人もいると考えられます。常に前方から見ている人は後方の背景が理解し難いのではないでしょうか。それぞれ立場の異なる人達がおおいに論議し合って,その核心を見付けることが今後の実技協の発展につながることになると思います。
 実技協も発足以来20余年,『和』から『積』の時代に変換すべき時期にきていると思うのは私だけでしょうか。