第 6 号
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-- 北から南から --
動物もやっぱり女性が強い!?
国立予防衛生研究所 持田慶司

 ハムスター(シリアン)の繁殖を続けていると,雄に比較して雌の強さが顕著に感じられる。発情期以外の雌は雄を受け付けない,というのは多くの書物に記載されているが,発情前期の雌への雄の一晩同居であっても負傷する雄が少なくない。また,交尾経験後の雌のみの群居飼育では,高頻度で咬傷がみられる。しかし,雄のみでは咬傷を受けるほどのケンカにはならないようだ。
 スナネズミにおいても,性成熟後の雌と雄を同居させると,高頻度でケンカというよりも雄が雌の攻撃を一方的に受け,ひどい場合には死に至る。雌同士の群居飼育でも,性成熟が進むと激しいケンカになる場合がある。この時傷を負った個体は続けて攻撃を受け,やはり死に至るほどの傷や衰弱を呈してしまう。
 これらの,主に雌の攻撃性の発現については,特に性ホルモンの影響が疑われたけれども,はっきりとした相関性は認められていないようだ。では,何故雌が雄よりも攻撃性に富んでいるように見えるのだろうか。
 動物行動学の本を開いてみると,『生殖に関する投資』という言葉が記載されている。この『投資』の大きさは雌と雄が等価であることが原則であり,そうでない場合には性的バランスが崩れてしまい,やがては種の存続への致命傷ともなってしまう。雌におけるこの『投資』とは,栄養を含んだ巨大な配偶子(卵子) をつくり出し,受精後に胎仔を形成し,分娩・保育を行うことであり,雄の『投資』とは,圧倒的多数の精子の形成,精力的な探雌行動,そして雌やなわばり獲得競争の為の雄同士の闘争等を意味する。
 特にハムスターは,妊娠期間が非常に短く,授乳期における生理的負担が大きいため,授乳後には雌親の体重減少や衰弱が目立つ。加えて,人に馴れやすい反面神経質であり,ストレスを受け易い。また,後分娩発情はないが産仔数が多く子孫を多く残せることから,その中の優れた個体を選択する必要性を生じ,そのために出産という重労働を経て強いストレスを持つ雌に攻撃性が備わったと考えられないだろうか。飼育室内の与えられた環境では,雄の『投資』の多くの部分が発揮できなくなり,従って雌の強さのみが強調される・・という解釈はあまりにもこじつけであろうか。
 行動学の範囲で議論することは非常に有効であろうけれども,飼育室の内側だけの論理では成り立たない。人工的な環境に長期間おかれているために変化してしまった特質も含めて,野生時におけるその動物の生活を,実際にこの目で調査し検討する必要がある。しかし実験動物飼育者である我々は,現地へ赴いて,そのための日々を費やすことができないであろう。そこで,頭の中だけでもその動物の生活する空間へトリップし,勝手な空想に一人ふけるのも楽しいものである。